国立長寿医療センターアルツハイマー病研究部
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研究内容
 
       
部長研究グループ
部長:道川 誠、研究員:西辻和親, 山内玲奈, 堀由起子
大学院生;加藤玲子、研究補助員:
研究課題
脳内コレステロール代謝機構の解明とコレステロール代謝調節によるアルツハイマー病発症の予防・治療法の開発
研究概要
脳内コレステロール代謝を司るapolipoprotein E (apoE), ABCA1, CYP46 等の遺伝子多型とアルツハイマー病発症との関連が指摘されています。しかし、脳内コレステロール代謝・輸送系の理解が不十分であり、上記遺伝子産物の機能も良く解っておりません。当研究グループでは14年前よりapoEのアイソフォーム依存的機能を脳内コレステロール代謝の視点から解析する研究を開始し、コレステロール代謝変動とアルツハイマー病病理発現との関連の解明に取り組んできました。コレステロールとアルツハイマー病との関連は、アミロイドβ蛋白(Aβ) 産生の視点から議論されることが多いのですが未だに結論がでておりません。更に、血液中と脳内のコレステロール代謝は、血液脳関門によって隔絶されているため独立した代謝系を営んでいますが(血液中にはLDL, VLDL, HDL等多様なリポ蛋白が存在、脳内にはHDLのみ存在しない)、これらを区別しない議論も多いのです。これに対して私たちは、ApoEを脳内HDL産生を担う鍵分子と位置付け、HDL産生・輸送によって恒常性が維持される脳内コレステロール代謝や、近年明らかになったApoE-HDLの持つAβ分解・除去作用の観点から、HDLレベルやコレステロール代謝変動とアルツハイマー病病理との関連を検討してきました。その結果、ApoE-HDLやコレステロール代謝をむしろアミロイドカスケードを動かす(強く影響する)中心的な分子として位置付けるに至り、これを理論的基盤としてアルツハイマー病の予防・治療法として、”HDL療法”の確立を目指しています。
これまでの研究
 (a) アミロイドβ蛋白(Aβ) 重合体は神経細胞内コレステロール代謝恒常性破綻を招く。
(i) 私たちは、アルツハイマー病で増加するAβ重合体は、神経細胞膜からコレステロールを搬出し再利用されないHDL様粒子を形成する(Michikawa et al, J. Neurosci., 2001)とともに、細胞内コレステロール合成を抑制し、その量を減少させること(Gong et al, J. Neurosci. Res., 2002) を明らかにしました。これに対して、(ii) Aβ単体には上記作用はなく、特にAβ40単体は、遷移金属との結合を介して抗酸化作用を発揮し、神経細胞保護的に働くことを培養神経細胞 (Zou et al, J. Neurosci., 2002)およびマウス脳(Zou et al, J Neurochem, 2003)で明らかにしました。更に、Aβ重合体を形成しやすいAβ42(毒性が強い)を神経保護作用を発揮するAβ40に変換する酵素の存在を予想し、それがACE(angiotensin-converting enzyme)であること、ACEの活性阻害によりAβの脳内沈着が増加すること(Zou et al, J Neurosci, 2007)を発見し、ACEのドメイン別にAβ42の変換作用と本来のACE活性があること(Zou et al, J Biol Chem, 2009)を明らかにしました。

 (b) 細胞内コレステロール代謝変動はタウ蛋白のリン酸化亢進を誘導する。
では、細胞内コレステロール代謝変動は何をもたらすのでしょうか。私たちは、細胞内コレステロール量の減少が、(i)アルツハイマー病脳病理の特徴であるタウ蛋白のリン酸化亢進を招くこと(Fan et al, J. Neurochem., 1999; 2001) 、さらにシナプス可塑性維持に重要な神経突起伸長を抑制すること (Fan et al, J Neurochem, 2002) を明らかにしました。また、(ii)コレステロール輸送障害を持つ神経変性疾患Niemann Pick病C型のモデルマウス脳でタウ蛋白のリン酸化亢進を確認し (Sawamura et al, J. Biol. Chem., 2001)、そのメカニズムを明らかにしました(Sawamura et al, J. Neurochem., 2003)。更に、(iii) コレステロール代謝変動に起因するタウ蛋白のリン酸化亢進がマイクロドメイン機能変動に由来すること (Sawamura et al, J. Biol. Chem., 2004)、(iv)細胞内コレステロール代謝変動が、ミトコンドリア膜コレステロール量の変動とそれに起因するミトコンドリア機能低下ならびに、神経細胞死を誘導すること (Yu et al, J. Biol. Chem., 2005a; Yu et al, J. Biol. Chem., 2005b)を見いだしました。アルツハイマー病でもミトコンドリア障害の存在が指摘されていることを考えると、この発見は、細胞内コレステロール代謝変動に起因する神経細胞変性の分子機構を明らかにした点で重要であると考えています。

 (c) ApoEのコレステロール代謝恒常性維持作用はアイソフォームに依存する。
神経細胞内コレステロール代謝破綻は、Aβ重合体(上記(a))以外に、加齢で増加する酸化コレステロールによっても引き起こされます。こうしたコレステロール代謝破綻に対して、アストロサイトから分泌されるapoEはHDLを新生し、HDL-コレステロールを供給することによって神経細胞のコレステロール代謝の恒常性維持に働いていると考えられます。私たちは、apoE3はapoE4に比べアストロサイトからのHDL新生作用が2倍以上あることを見出し、その分子機構を明らかにしました(Gong et al, J. Biol. Chem., 2002およびMinagawa et al, J Neurosci Res, 2009)。ApoEによるHDL産生とその供給によるコレステロール代謝恒常性維持能力はapoE3がapoE4に比して優れるため、apoE3はタウ蛋白のリン酸化の調節、シナプス可塑性維持、神経修復などに有利であると考えられます。
展望
 コレステロール代謝とアルツハイマー病の関係についての私たちの考え方を基盤に、脳内HDLのシナプス形成・神経修復における重要性、ならびにHDL新生におけるapoEアイソフォーム特異性等を考え合わせますと、脳内"HDL療法"とも呼ぶべき新たな介入法の可能性が浮かび上がります。すなわち、脳内のコレステロール代謝をHDL産生調節によって制御することでアルツハイマー病病理発現を抑制できないだろうか、という考え方です。当研究部では、アルツハイマー病病理に対するHDL療法の妥当性を検証し、アルツハイマー病の予防・治療への応用・実用化を目指しています。
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